岡田総帥の最期

2021年3月19日。JRAに所属する競走馬の調教施設であるトレーニングセンター(滋賀県栗東、茨城県美浦の2カ所にある)は騒然としていた。

「マイネル軍団」岡田繁幸総帥が亡くなった。71回目の誕生日に――。

錯綜する情報は、牧場の敷地内に緊急車両が止まっているなどと次第に現実味を増し、その死因も明らかとなっていった。スポーツ新聞に競馬担当記者として勤める私は、週末の競馬開催の予想作業の真っ只中。金曜日だった。

生前、岡田総帥の一挙手一投足を精察していた著者が、葛藤の末に故人の生き様を描ききった『相馬眼が見た夢 岡田繁幸がサンデーサイレンスに刃向かった日々』(講談社)は、その最期の真相を明かす序文に端緒をなす。

岡田繁幸というホースマンと、本書のタイトルにある相馬眼とは切っても切り離せない関係にある。イコールで繋いでも誤りではないだろう。

相馬眼とは馬の素質を見抜く能力のこと。「そうまがん」と読む。生まれつき備わるものではなく、何万、何十万、何百万頭の競走馬を長年掛けて研究することで漸進的に養われていく。狂気じみた努力を重ねても数値化されるわけではなく、その証明も叶わない。そんな曖昧模糊な存在であった相馬眼を、「自分こそが日本一である」と豪語し、自身の代名詞としたのが故人だった。