
我々は、日常的に世界地図を見ています。
しかし、数百年前は人類の誰一人として「世界の全容」を知らなかったはず。風力で動く帆船しか乗り物がなかった時代、今眺めている水平線の向こうにどんな島、或いは大陸があるのか全く見当もつきませんでした。では、昔の探検家はどのように新しい島を探したのか? というより、ある探検家が発見したと主張する島の実在を「疑いようのない事実」と認定する方法はあったのか?
そうしたことを身をもって体験できるゲーム『Salt 2: Shores of Gold』(以下『Salt 2』)をプレイしていきたいと思います。
大航海時代の最先端ガジェット・六分儀
2022年9月に早期アクセス配信を開始し、2025年11月に正式配信へ移行した『Salt 2』。これは自動生成される大海原を船で進み、新しい陸地を発見して探検していく内容のゲームです。
完全なオープンワールドではないものの、海から島へ上陸してそこを探検する間は継ぎ目のないオープンワールドになっています。全く白紙の地図を作成しつつ、まだ見ぬ土地を見つけていきます。それはまさに大航海時代の船乗りそのもの!

主人公は、無人島に漂流した探検家。残された素材、そして作りかけの船が作業台にある状態でゲームは開始します。もっとも、「作りかけの船」といっても大層なものではありません。舵とマストはついていますが、要は丸太で作った筏。別のゲームですが、『RAFT』と大差ないくらいにショボい……もとい、小さな船です。こんなんで冒険しろっての!?

ですが、この『Salt 2』の場合は最初から六分儀と方位磁石があります。方位磁石はともかく、六分儀って何!? という読者もいらっしゃると思いますが、これは特定の星の角度を観察することで位置情報を得られる大航海時代の最先端ガジェット。『Salt 2』ではこれを使って、自分の今いる位置を地図に記載します。
嘘の報告を見破る方法は?
『Salt 2』での船旅の最中に発見できる島は、時としてNPCが住んでいることもあります。そうでなくとも、人が住んでいた痕跡を発見し、そこから素材やアイテムを得るということも。
最大6人の協力プレイが可能なこの作品ですが、それでも基本的には「自分ひとりで全て行う」ゲームです。物を作るのも、素材を集めるのも、新しい島を見つけるのも原則として自分がやるべき仕事。そして、ここで一つの疑問が浮かびます。

16世紀、17世紀の大航海時代真っ只中のヨーロッパの探検家も、『Salt 2』とあまり大差ない方法で船を進め、未発見の土地を探し当てていたはず。その土地が世界のどこにあるのかは、上述のように六分儀を使って位置を割り出し、それを記録した上で本国の地理学者に報告します。ですが、中には「俺はこの島を発見したんだぞ!」と主張しておきながらそれ自体が嘘の報告だったということもあったはずでは……?
また、報告が故意のデマカセでなくとも「発見者の勘違い」だったこともあるでしょう。島だと思っていたのが実は岩礁だった、などという出来事は実際によくありました。つまり、誰かが島を発見したのなら「その島の存在を確認する人」が複数人いなければならないということです。

人工衛星が飛び交っている現代ならともかく、数百年前の昔は大変な労力をかけて実際にその島へ行かなければなりませんでした。これはもちろん、命懸けです。その上で、人類は18世紀中葉を迎えるまで「海上で経度を計測する方法を持っていなかった」という事実にも言及する必要があります。
海上で経度を観測することは不可能だった!
『Salt 2』では、アイテムの六分儀を使えば地図上の縦位置と横位置が判明する仕様になっています。
しかし、現実世界の海上では六分儀だけで分かるのは緯度だけ。経度の場合は特定の天体との「その時刻毎」の角度を求めなければならないため、正確な時計を船に積み込むのが絶対条件になってきます。もちろん、昔はそんな時計など存在しません。18世紀も残り半分を切った頃、イギリスの時計職人ジョン・ハリソンがクロノメーターを発明してから、ようやく海上で経度を計測できるようになりました(しかも、嫉妬心からハリソンを中傷する奴が結構いました)。
縦位置は分かるけれど、横位置は分からない。そんな技術水準では、報告されている島の存在が実は全くのデッチアゲだったということもしょちゅうでした。
代表的なのは、メキシコ湾にあるとされていた「ベルメハ島」です。その発見・報告は16世紀ですが、結論から言えばこれは「疑存島」。今に至るまで、存在が確認されていません。にもかかわらず、メキシコ湾のユカタン半島北方という位置関係のため、アメリカとメキシコのEEZ(排他的経済水域)を巡る論争を生み出す原因にもなりました。
このベルメハ島の実在を巡り、何と僅か16年前の2009年に調査が行われています。この調査により、人類は「ベルメハ島は幻だった」ことを確認するのです。
当時の探検家の苦労を疑似体験!
ここで今一度、ゲームに戻りましょう。
筆者が特に感心したのは、ところどころにある「手作り感」です。これはゲームの質を指しているわけではなく、たとえば「船の帆は自分の手で上げなければならない」「海岸に座礁している船を再び海上に浮かせるには、自分の手で押さなければならない」といったゲーム性です。
六分儀や方位磁石の操作も、そんな「手作り感」に彩りを添えています。
サバイバルゲームとしては決して難しいものではなく、たとえば最序盤で手に入る短剣カットラスを使えば、熊を倒すこともできます。その熊から入手できる肉を焼いて空腹をしのぎ、ダメージを回復した上で新発見の島内を探索する……ということを延々と実行する方向性でプレイしていくことも可能です。てか、このゲームは銃よりもカットラスのほうが使い勝手のいい武器だったりして……。

現時点で日本語は実装されていませんが、これは中学生レベルの英語でも十分に解読することができます。操作自体も決して複雑なものではなく(伝統的なWASDアクション)、正直この『Salt 2』を「日本語に対応していない」という理由でスルーしてしまうのは非常にもったいない!
昔の探検家がどのように島を発見していったのか、どのように土地を開拓していったのか。そうしたことを、たった2GBのストレージ容量で疑似体験できる良作と言ってもいいでしょう。
『Salt 2: Shores of Gold』は、PC(Steam)向けに配信中です。
【参考文献】
世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語 ナショナルジオグラフィック
