『果てしなきスカーレット』はなぜ苦戦かつ低評価となったのでしょうか。「それまでの細田守監督作と異なる印象」はもとより、「宣伝と内容のミスマッチ」があり、そして「有名な物語をベースとしたことが不自然さにつながった」と思えるところもあったのです。(画像は筆者撮影)

スカーレット
画像は筆者撮影

11月21日公開のアニメ映画『果てしなきスカーレット』が興行的にかなりの苦戦スタートになり、作品評価が大荒れの状態となっています。なぜ、こうなってしまったのでしょうか。

ヒナタカ

この記事の執筆者:
ヒナタカ

映画 ガイド

All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
…続きを読む

>プロフィール詳細

今後の「悪循環」につながる厳しいスタートに
全国389館という最大規模の上映館数、最大スクリーンの割り当てかつ1日10回前後またはそれ以上の上映回数が用意されたにも関わらず、空席があまりに目立つ回が多く、映画ランキングでは初登場3位。祝日を含めた公開4日間の興行収入は2億7000万円となり、細田守監督の前作『竜とそばかすの姫』の公開3日間で8億9000万円のスタートとの比較では約22.75%(4日間換算)と厳しいスタートとなりました。

加えて、映画.comでは2.7点、Filmarksでは2.9点(11月25日現在)とレビューサイトでもかなり低いスコアです。公開初日のSNSで苛烈な酷評が目立った時と比べれば、擁護意見の割合がそれなりに増えてはいるものの、やはりマイナス評価が多いのは事実です。

今後は、「劇場がガラガラ」かつ「酷評の嵐」というイメージはより作品のネガティブな印象を強め、さらにライト層から敬遠されるという悪循環も生んでしまうでしょうし、2週目からの上映回数は激減するとみられます。

その上で、個人的には『果てしなきスカーレット』は細田監督というクリエイターの意志が存分に表れた、今の世界に届ける意義を感じた作品でした。迫力のある画が満載であり、劇場のスクリーンで観る価値は絶対にあると断言します。

一方で「物語はスタッフとの話し合いで調整できることがあったのでは」「宣伝と内容のミスマッチがある」と思わざるを得ない、酷評されるのも致し方がないと思えた部分もありました。その上で、「こういう作品である」と認識すればこそ、評価が上がる可能性も高いと思います。

まずは、ここまで苦戦となった理由から、低評価が寄せられた理由まで、大きなネタバレにならない範囲で記していきましょう。

苦戦の理由1:これまでの細田監督作とは異なる「血生ぐさい復讐劇」
酷評が広まる前、公開初日から低調スタートとなった最大の理由は、「予告編やポスターで伝わる雰囲気や物語が、今までの細田監督の映画と大きく異なる」ためでしょう。

舞台は16世紀のデンマーク(および「死者の国」)かつ、物語は「暗くて重い血生ぐさい復讐劇」であり、これまでの細田監督の映画の「身近な世界での爽やかな夏の冒険物語」という印象からは、はっきりと大きな乖離があるのです。

しかも、実際の本編では主人公のスカーレットが痛めつけられ苦しむ、意図的にせよサディスティックにさえ思える描写が目立ちます。特に、クライマックスのとある場面は、度を超えて不快に感じてしまう人もいるでしょう。

これらは予告編からある程度は推測できるもので、この時点で「見たくない」と思った人が多かったのではないでしょうか。ファミリー向けに作られているとは思えないですし、未就学児ごろの小さいお子さんにはおすすめしづらい内容です。そうであるのに、ここまでの上映回数でスクリーンを「占拠」しているような印象にも、ミスマッチがあります。

また、細田監督作『未来のミライ』は否定的な作品評価が多く最終興行収入も28.8億円と落ち込みましたが、続く『竜とそばかすの姫』が最終66億円と大きく跳ね上がりました。そちらは予告編からして『サマーウォーズ』に近い印象があり「楽しそう!」となった人が多かったのでしょう。対して、『果てしなきスカーレット』は「暗くて重そうだし面白いかどうか分からない」と思われてしまったのだと感じます。

苦戦の理由2:ブランドへの「過信」と実際に積み重なった「不信感」
はっきりと良くなかったと指摘したいのは、「細田監督のブランドに頼ったような予告編」の作りです。

細田監督作『時をかける少女』『竜とそばかすの姫』『サマーウォーズ』の名シーンが矢継ぎ早に映されてから『果てしなきスカーレット』へと移るのですが、これが「細田監督というブランドありき」に思えてしまう上に、前述した「これまでの細田監督作と違う」印象を強めてしまって、逆効果だったと思うのです。

YouTubeの同動画では「冒頭に過去作の映像を出している時点で…、この作品自体の魅力で勝負できない、と言っている様なもの」という辛らつなコメントがされるのも、致し方ないと思ってしまいます。

ここはダークな作風を前提とし、例えば後述する芦田愛菜の歌唱をフィーチャーするなど、「この映画そのものの」魅力をより良く見せるための予告編の作りが必要だったのではないでしょうか。

そもそも、細田監督というブランドの力が、大きく失われてしまっていたタイミングでもあったと思います。前作『竜とそばかすの姫』は全体的な作品評価は悪くはないものの、終盤の展開には「ツッコミどころ満載」「現実の社会問題への誠実さが感じられない」といった批判が寄せられていました。

それ以前から、細田監督が単独で手掛けた脚本には厳しい意見が多く、その積み重なった不信感が、今回の「今までの細田監督作に間違いなくある楽しさ」を意図的に捨てたようなビジュアルや物語とも組み合わさり、ネガティブな印象をさらに強めてしまったと思うのです。

苦戦の理由3:『鬼滅の刃』『チェンソーマン』『呪術廻戦』がまだ劇場公開中だった
作品の外にある要因ですが、2025年は『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』第一章 猗窩座再来』『チェンソーマン レゼ篇』『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』という、社会現象級のアニメの劇場版が特大ヒットを記録しており、現在も公開中です。

サンライズ社による「映画館利用率」に関する2025年時点での調査報告によると、「年1~2回」の頻度で映画館を利用している人が23.8%と最も多く、次いで「年3~5回」が13.8%となっています。

ここから鑑みるに、「間違いなく面白いアニメ映画をすでに見ているライト層」は「年間の映画館に足を運ぶ回数をすでに消化している」ため、「面白いかどうか分からない」「暗くて重そう」な『果てしなきスカーレット』は、さらに「選ばれない」作品になってしまったと思うのです。

次ページ

『ハムレット』や『神曲』の影響が「不自然さ」につながった?