(CNN) コウモリは南極大陸を除くすべての大陸に生息しているが、その個体数は減少している。生息地の喪失、病気、農薬などが減少の要因だが、近年は他にも深刻な脅威が存在する。風力タービンだ。国連環境計画によると、世界中で毎年数百万匹のコウモリが風力タービンによって命を落としている。風力タービンのブレード(羽根)によるコウモリの年間死亡数は、カナダで約5万匹、ドイツで20万匹以上、米国で50万匹以上と推定される。

非営利団体「バット・コンサベーション・インターナショナル」の主任科学者であるウィニフレッド・フリック教授は、コウモリは生態学的に非常に重要な役割を果たすだけでなく、世界経済にとっても極めて重要だと説明する。多くの種が農業害虫を食べる他、果物の種子を散布する種や、重要な作物の花粉媒介者として働く種もいる。例えばオナシハナナガコウモリとレッサーハナナガコウモリは、テキーラの原料となるリュウゼツラン(アガベ)の受粉を担う。「カクテルのマルガリータが好きなら、コウモリに祝杯を挙げなくては」と、フリック氏は冗談めかして言う。

米テキサス州中部の空を舞うオナシハナナガコウモリの大群。大量の昆虫を補食することから、農作物の保護と農薬の使用低減に寄与する/Josh Hydeman/Bat Conservation International
米テキサス州中部の空を舞うオナシハナナガコウモリの大群。大量の昆虫を補食することから、農作物の保護と農薬の使用低減に寄与する/Josh Hydeman/Bat Conservation International

タービンによるコウモリの死因に関する初期の研究では、気圧外傷(タービンブレード付近の急激な圧力変化によってコウモリの内臓が破裂する)が主な原因であると指摘されていたが、最近の研究では、ほとんどのコウモリがブレードとの直接的な衝突で死んでいると示唆されている。

しかし、重要なのは死因ではないとフリック氏は言う。いずれにせよ、コウモリは数百万匹も殺されているのだ。風力発電は世界の電力の8%を占める重要な再生可能エネルギー源である一方、「コウモリの個体数の減少を引き起こさないよう責任を持って」運用されるべきだと、同氏は付け加えた。

タービンによるコウモリの死因に関する初期の研究では、気圧の急変で起こる内臓破裂が主な原因と考えられていたが、最近の研究によればほとんどのコウモリがブレードと直接衝突して死んでいるという/Donald Solick/Bat Conservation International
タービンによるコウモリの死因に関する初期の研究では、気圧の急変で起こる内臓破裂が主な原因と考えられていたが、最近の研究によればほとんどのコウモリがブレードと直接衝突して死んでいるという/Donald Solick/Bat Conservation International

風力タービンの稼働停止

多くの国では、開発業者は風力発電所を設置する前に環境影響評価(EIA)を実施しなければならない。世界風力会議(GWEC)の広報担当者はメールで、「自然保護区、繁殖地、そして生物多様性に重要な地域は通常、風力発電所の建設候補地の検討対象から除外される」と述べ、開発プロセスにおいては、生息地や野生生物の移動経路への潜在的な影響を調査すると説明した。

しかし研究者たちは、コウモリを風力タービンから守るための規制は世界各地で大きく異なり、十分に施行されていない可能性があると指摘する。ある研究によると、自主的な規制の遵守は「世界規模で問題を抱えており、事実上存在しない」という。

風力発電所が建設された場合、コウモリをタービンから守るために現在用いられている主要な戦略は「全面的出力抑制」だ。これは、コウモリが現れる可能性が最も高い低風速時にタービンを事実上停止させる措置を指す。

発表された研究を分析したところ、7月中旬から10月中旬にかけての夕暮れから夜明けまで、風速5メートル以下の時間帯に風力タービンを停止させた場合、この方法によってコウモリの死亡率が60%以上減少したことが明らかになった。しかしシミュレーションによれば、特定の地域や一定の出力抑制シナリオで実施した場合、この方法ではタービンの年間発電量が10%以上減少する可能性があることが示されている。

発電ロスを削減する解決策の一つとして、「スマート出力抑制」が挙げられる。これは、「コウモリが危険にさらされているときには保護し、そうでないときにはタービンを稼働させる」ことを目指す。米国に拠点を置くエコーセンス社の統括責任者、ケビン・デンマン氏が明らかにした。

エコーセンスは、コウモリがエコーロケーション(高周波音を使って空中環境を移動する)を行う際に発する音響信号を検知するセンサーをタービンに取り付けることでこれを実現している。この信号を検知すると、近くのタービンの出力は抑制される。これによりコウモリが無傷で通過するのに十分な時間が生まれる仕組みだ。

米ペンシルベニア州の風力発電プロジェクトに携わる生物学者のマイケル・シャーマッハー氏。風力タービンにコウモリの接近を検知する音響装置を設置している/Michael Schirmacher/Bat Conservation International
米ペンシルベニア州の風力発電プロジェクトに携わる生物学者のマイケル・シャーマッハー氏。風力タービンにコウモリの接近を検知する音響装置を設置している/Michael Schirmacher/Bat Conservation International

「当社のシステムを通じ、全面的な出力抑制戦略で失われたエネルギーの約50%を取り戻すことができた」とデンマン氏は述べ、米エネルギー省が共同出資した2023年の研究に言及した。この研究で当該のシステムを全面的な出力抑制と比較したところ、「コウモリの死亡率に有意な差はない」ことも明らかになったという。

世界では他にも複数の企業が検知システムを開発中だ。フランスのBiodiv-Wind社は赤外線カメラを用いてコウモリを検知し、スペインのDTBird & DTBat社は人工知能(AI)を駆使して鳴き声からコウモリの種をリアルタイムで識別する。エコーセンスのコウモリ生物学者、ロジャー・ロドリゲス氏によると、このような種識別AIシステムを用いれば、絶滅危惧種のコウモリを対象にタービンの出力抑制を選択的に行うことができる可能性があるという。

「スマート出力抑制」技術について尋ねられたGWECの広報担当者は、こうした取り組みを歓迎。「風力発電所においてバイオアコースティック技術は、現地のコウモリの個体群へのリスクを最小限に抑えつつタービンを稼働させるため、しばしば必要とされる」と付け加えた。

米エコーセンスが風力タービンに取り付けた、コウモリの発する音響信号を検知するセンサー/EchoSense
米エコーセンスが風力タービンに取り付けた、コウモリの発する音響信号を検知するセンサー/EchoSense

コウモリ・シグナル

現時点では別の方法も試験段階にある。それはコウモリがタービンの「ローター通過域」(コウモリにとっての危険地帯)に近づかないよう、超音波を発生させる方法だ。

このシステムでは、タービンに取り付けられたスピーカーから人間には聞こえない超音波を流す。超音波は、影響を受けるコウモリ種の多くがエコーロケーションに用いる周波数帯域に及ぶ。システムを開発したNRGシステムズのマーケティング担当副社長、レオン・ヘイルストーンズ氏によると、この超音波によってコウモリの方向感覚が狂い、これらの空域を避けるようになるという。同氏は、当該の装置を抑制策と併用することでコウモリの死亡率はさらに低減し、タービンのエネルギー出力を向上させる可能性があると示唆している。

いくつかの研究論文から、超音波による音響抑止装置が特定のコウモリの種に効果的であることが分かっている。一方でこれらの論文は、さらなる調査が必要だとも説いている。

世界には1400種を超えるコウモリが生息している/Josh Hydeman/Bat Conservation International
世界には1400種を超えるコウモリが生息している/Josh Hydeman/Bat Conservation International

前出のフリック氏によると、「音響抑止装置は実際には特定のコウモリ種の死亡率を増加させかねないという証拠もある」。これはコウモリが生来持つ好奇心が原因だという。さらに、「高周波音はそれほど遠くまで届かない」ため、ローターの影響を受ける領域を十分にカバーすることは難しいと同氏は指摘する。ヘイルストーンズ氏によれば、NGRシステムズは現在この問題に対処しており、コウモリにとって危険なエリアを最大限カバーするべく、風力タービンに設置する抑止装置の配置と角度を実験中だという。

フリック氏は、野生生物を保護するため、リスクを最小限に抑える風力タービンの配置と運用に重点を置くべきだと主張する。「私たちはエネルギー生産を最大化する方法を見つけたいと考えているが、環境に責任を持つ形でそれを実現したい。生物多様性が失われる事態を引き起こしたくはない」