(CNN) 古生物学者たちは長年、恐竜の雄と雌を化石によって区別することに苦心してきた。しかし新たな研究から、ある一群の恐竜に関しては性別の特定に一段と近づける可能性が浮上している。
カモノハシ竜の名でも知られるハドロサウルスは、白亜紀後期(1億50万~6600万年前)に広く生息した草食恐竜で、その骨は多くの大陸で見つかっている。
一部のハドロサウルスの化石には、外傷性の骨損傷が治癒した痕跡が確認できる。骨の部位は全て同じ。尾の付け根を過ぎた辺りの椎骨(ついこつ)だ。
恐竜の生殖器官の証拠を示す軟部組織は、化石としては記録に残らない。そのため化石に見られる差異は恐竜の性別ではなく、その種類や年齢によるものと考えられることが多い。加えて化石化した卵を含んだ恐竜の痕跡が見つかることはなかなかない。
4日付の科学誌アイサイエンスに掲載された新たな研究論文の著者たちは、前述の骨損傷が交尾の際に生じたものであり、雌のハドロサウルスの判別に利用できると考えている。
化石のパターンを特定
カナダの古生物学者、ダレン・タンケ氏は、ハドロサウルスの椎骨の損傷に最初に気付いた。それらの骨は、アルバータ州の州立恐竜公園で1980年代を通じて自ら発掘したものだった。
タンケ氏は当初の仮説として、傷は雄のハドロサウルスが交尾の過程で雌の体に乗ることで発生したと考えた。しかしこれは、大半がカナダ国内で見つかった化石を基にした主張だった。
今回の論文の筆頭著者を務めたフィリッポ・ベルトッツォ博士は、ハドロサウルス科の恐竜「オロロティタン・アルハレンシス」の化石を調べていたところ、同じ損傷が見られるのに気付いた。ロシアへ調査旅行に出かけていた2019年のことだ。当時、博士号取得のための研究として、英国の北アイルランドにあるクイーンズ大学ベルファストでカモノハシ竜の疾病について調べていたベルトッツォ氏は、タンケ氏に呼び掛けて新たな研究に乗り出した。
両氏とその共同研究者たちは、異なる種類のハドロサウルス科の恐竜を対象に、500個近い尾椎を分析した。それらの標本は北米、欧州、ロシアの博物館に所蔵されていた。
彼らが尾の中央部で発見した損傷や変形は、様々な標本の間で驚くほど類似したものだった。
具体的には尾の付け根、仙骨と尾の中間点の間では、椎骨から伸びた長い突起の先端が損壊していると、ベルトッツォ氏は説明する。
突起の先端は傾いているか、もしくは完全に失われている場合もあった。どの標本でも損傷は複数の椎骨で確認できた。ベルトッツォ氏によるとこれは、損傷が尾の主要線に沿って広がっていたことを示唆する。
チームは数多くのシミュレーションを行い、損傷が交尾以外の日常の行動で発生した可能性がないかどうか検証した。例えば偶然に相手の尾を踏んでしまうケースや、仲間同士の争い、肉食恐竜からの襲撃などで体を動かした際の筋肉への重圧を想定したが、どのシナリオでも化石に見られるような損傷が一貫して現れることは考えられないと、論文は指摘している。

椎骨の突起部分が広範囲にわたって損傷しているハドロサウルス科の恐竜の化石。米ノースダコタ州のバッドランズ恐竜博物館所蔵/Filippo Bertozzo/iScience
論文著者らの考えによれば、雄が交尾の際、横向きに寝た状態の雌に乗ることで雌の尾を圧迫。意図せず椎骨の突起を傷つけていたとみられる。現時点でこの仮説が、チームの得た観察結果やデータを最も適切に説明するとベルトッツォ氏は語る。同氏はまた、ハドロサウルス科の恐竜の種類や生息した地域、年代を問わず突起の損傷が見られる点を強調。種類に特定されず、全ての恐竜が行う交尾が原因と考えるのが一番しっくりくると示唆した。
雄と雌の区別
それでも、さらなるデータが求められる。チームはここまで大量のデータをまとめたが、今後は中国や南米からの化石も調べ、比較を続けたい考えだ。さらにベルトッツォ氏は、一段と強力なコンピューターシミュレーションを駆使して、尾の動きや筋肉量といった内容を様々な損傷シナリオの中に盛り込みたいとしている。
ベルトッツォ氏はまた、こうした損傷が首の長い竜脚類など、他の種類の恐竜にも見られるのかどうか確かめることにも関心を寄せる。イグアノドンに同様の損傷が認められなかったことは同氏を驚かせた。イグアノドンはハドロサウルスの祖先で、同じように化石記録が極めて広範に残る恐竜だ。

白亜紀後期の北米大陸に生息したハドロサウルス科の恐竜「エドモントサウルス・アネクテンス」のイメージイラスト/Roman Garcia Mora/Stocktrek Images/Getty Images
研究はまだ始まりに過ぎない。自分たちの取り組みが最初の一歩となって、こうした恐竜の生活の側面に関する知見が深まればいいと、ベルトッツォ氏は語る。
ただ骨を根拠に恐竜の雄と雌を区別するのは証明の負担が大きく、歴史的には困難な研究であり続けていると、英スコットランドのエディンバラ大学で古生物学と進化を専攻するスティーブ・ブルサッテ教授は指摘する。同氏は今回の研究に携わらなかった。
ブルサッテ氏は、論文著者らについて「説得力のある議論を提供していると思う」としつつ、「恐竜の行動にまつわる多くの側面がそうであるように、我々は数千万年前の世界で彼らを実際の動物として観察したわけではない。そのためこうした解釈を巡っては、今後も一定の疑念、不確実性がついて回るだろう」と述べた。その上で「人間でも、男の子と女の子の見分けがつかないことはよくある」と言い添えた。
