コラム:6年連続陽線模様のユーロ/円、年内に過去最高値更新も=植野大作氏

 初秋の外国為替市場で、ユーロ/円は発足来高値の目前まで上昇している。植野大作氏のコラム。写真はエジプト・カイロで2019年3月撮影(2025年 ロイター/Mohamed Abd El Ghany)

[東京 22日] – 初秋の外国為替市場で、ユーロ/円は発足来高値の目前まで上昇している。9月19日に一時174円50銭と2月28日に記録した年初来安値から約7カ月で12.7%も上昇する場面があった。ただ、この水準まで浮上すると昨年7月に記録した発足来高値の175円43銭が目先の上値抵抗になり、過去最高値まで1円未満のところで伸び悩んでいる。

9月11日の理事会で2会合連続の金利据え置きを決めた欧州中央銀行(ECB)による利下げ打ち止め感が漂う中、3月に憲法を改正したドイツによる財政出動への期待がユーロの底上げに寄与する一方、長期化するロシア・ウクライナ戦争の先行き不透明感やフランスで高まる財政不安が、ユーロの上値を抑える心理的な重しになっている。

今年もあと3カ月余りだが、果たしてユーロ/円は2年続けて発足来高値を更新できるのだろうか。結論から先に述べると、筆者は年内にもユーロが対円での過去最高値を更新し、「6年連続の陽線」を記録して越年する可能性が高いとみている。なぜそう思うのか、理由を3つ挙げる。

第一に、昨年来の日欧金融政策運営の足跡をみると、日銀は昨年3月のマイナス金利脱却をきっかけに利上げ局面へ転換、政策金利をマイナス0.1%から0.5%まで、合計0.6%ポイント引き上げた。一方、ECBは昨年6月に最初の利下げに踏み切ったのを皮切りに、マイナス0.25%刻みで8回、累計2.0%ポイントも政策金利を引き下げた。日欧の金融政策の方向性の違いに着目すれば、円高・ユーロ安が進むとみるのが自然だ。

ただ、日欧の政策金利の「方向」ではなく「水準」に注目すると、日本の政策金利は当該期間中に政府・日銀の政策目標である2%を上回る水準まで上昇してきたインフレ実績を大幅に下回る実質マイナス圏に水没しているのに対し、ユーロ圏は過去の利上げ局面で積み上げた実質プラス金利の貯金を上手く取り崩して景気の低迷懸念に対処している。日銀が続けている実質マイナス金利政策が、円の上値を抑える重しになっていると推測される。

現在、筆者が所属するチームのエコノミストは、米国が日本に発動した各種関税による景気下押しインパクトを見極めるため、日銀は年内の追加利上げを見送る公算が高いとみている。来年年明けには利上げを再開するが、1月と7月に0.25%刻みで政策金利を2回引き上げた後、1.00%でひとまず利上げを停止すると予想している。

一方、ECBの金融政策については、過去8回に及ぶ利下げの結果、政策金利の下限となる中銀預金金利は、既に物価目標の2%に並ぶ水準まで引き下げられている。6月の理事会後に開いた会見でラガルド総裁は利下げ停止の可能性を仄めかし、実際にその後は2会合連続で金利据え置きの決定が下されていることから、ユーロ圏の利下げは実質マイナス圏に踏み込む手前で停止される可能性が高そうだ。日欧両地域の実質金利の符号条件の違いが、ユーロ/円の底上げに寄与する状態が続くだろう。

第二に日本とユーロ圏の国際収支に目を転じると、昨年は日本が30.4兆円、ユーロ圏が4156億ユーロ(円換算で約68兆2000億円)の経常黒字を計上している。昨年のユーロ圏の名目国内総生産(GDP)は日本の約3.5倍に相当するため、経済規模比でみた経常黒字は日本の方が大きいが、その内訳をみると、日本は貿易収支、サービス収支、第二次所得収支が全て赤字であり、第一次所得収支でしか黒字を稼げない構造になっている。

現在、日本の金利は満期15年近傍まで物価目標2%を下回る実質マイナス圏に水没している上、人口減による自然成長率の低下などから、海外資産の利息や配当で稼いだ第一次所得収支黒字の円転比率が低迷しており、見かけほどの円高圧力になっていないと推測される。貿易・サービス赤字に由来する実需の円売りや、直接投資や投資信託を通じた海外への資金流出を加味すると、日本の基礎収支は外貨買い超過になっているとみられる。

他方、ユーロ圏の経常収支をみると、ロシア・ウクライナ戦争の勃発直後に起きた天然ガス価格の急騰局面で一時的に赤字に転落した時期があったものの、天然ガスの価格が落ち着くにつれ、為替市場でのユーロ転比率が高い貿易・サービス収支を中心に巨額の黒字が復活しているのが印象的だ。

現在、ユーロ圏が安定的に計上している貿易・サービス黒字の実需決済時に発生する為替フローは片道切符のユーロ買い・外貨売り超過に戻っているとみられ、ECBの利下げや近隣地域における地政学リスクの高まりによって発生するユーロ安圧力を減殺する緩衝材になる一方、ユーロ高が進む際には上値を軽くする追い風になっていると推測される。

第三に、来年1月1日からブルガリアが新たなユーロ導入国になる予定だ。7月8日にEU閣僚理事会が同国のユーロ参加を正式承認したことを受け、ブルガリア国内では8月1日から既に通貨レフとユーロの二重価格表示が始まっている。

1999年1月に、独、仏、伊、スペイン、オーストリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、ポルトガル、アイルランド、フィンランドの11カ国で発足したユーロは、その後ギリシャ、スロベニア、キプロス、マルタ、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニア、クロアチアの新規加入を経て、現在の参加国は20カ国に拡大している。

軍事力を行使して他国の領土を奪う侵略戦争によらず、参加国の民主的な意思決定によって法定流通領域を広げ続けているユーロは、人類史上稀有な通貨だ。来年からブルガリアを加えた21カ国に拡大することで、大陸欧州の周辺国や一部アフリカ地域での「ローカルな基軸通貨」としての存在感が地味に強まることになるだろう。

ユーロ圏の拡大による流動性の向上は、目先の為替変動に直結するテーマではないかもしれない。ただ、近年の外国為替市場では折に触れて米ドル基軸通貨体制の揺らぎが取り沙汰される場面が増えている。人口減による流動性の減退が見込まれる日本円が米ドルの代替通貨になるとは思い難く、ユーロに市場の目線が向きやすい状況が続くだろう。

上記諸々の考察を踏まえた上で、筆者は「ユーロ/円=右肩上がり」の大局観を維持している。第二次米トランプ政権の発足後、予見不可能なタイミングで繰り出される大統領令の発動や改変が著しいこともあり、最近はトランプ流の政策運営への不信感や米国の財政懸念などをテーマにした「投資資金のドル離れストーリー」が、折に触れて盛り上がりがちだ。

ただ、そのような局面で発生するドル安圧力の受け皿としてみた場合、実質政策金利が世界最低で貿易・サービス収支は赤字体質、政府債務の名目GDP比も米国の2倍近くに達している日本円は、実質政策金利がマイナス圏に落ちる手前で踏み止まり、貿易・サービス収支が黒字基調で政府債務のGDP比も米国より低いユーロに見劣りする感を否めない。

昨今の為替市場で、ドル指数の下落局面で円以上にユーロが買われる一方、ドル指数の反発局面ではユーロ以上に円が売られ易く、結果としてユーロ/円の底上げが進んでいるのには理にかなった訳がある。1ユーロ=175円43銭の過去最高値更新は通過点に過ぎず、来年末までのどこかでは、人跡未踏の180円台を試しに行く可能性もあるだろう。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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