@落語 #インスタグラム #とんねるず #木梨憲武 「インスタ騒動記」「治ったらライブ」
「インスタ騒動記」
えー、世の中いろんな事件がございますがね。
この頃の事件ってのは、警察沙汰よりもインターネット沙汰のほうが怖いってんだから。
昔は「泥棒に入られた」って言やあ、裏口壊されて金庫こじ開けられて、まあ大騒ぎ。
ところが今じゃ、ドアも窓も壊さずに「IDとパスワード」でスッと入って、勝手に写真貼ったり、知らない人にDM送ったりするんですからね。
泥棒がパジャマ着たまま、どこにも行かずに商売してんだから、これじゃ空き巣も廃業ですよ。
で、この間ニュースになってたのがタレントのさとう珠緒さん。
もう五十過ぎてもあの「ぷんすか!」でお馴染みのお方ですな。
あの人がインスタグラムで「みなさんにご報告です」って。
なんだろうと思ったら「知り合いが乗っ取られたDMに、うっかり引っかかってしまいました」と来た。
……いいですか、これが日本の現実なんですよ。
「振り込め詐欺」と「インスタのDM」ってのは、だいたい同じ根っこ。
人間が「つい信じちゃう」「まあ大丈夫だろう」で引っかかる。
昔の詐欺師は「手形」「小切手」で騙してたのが、今は「リンク」「URL」。
時代が変わっても、人間の「うっかり」は変わらない。
でね、珠緒さんが「もし私から、なぞのDMが届いたら開かないでください!」って注意してる。
ところがファンのコメントが「心配ですね」「気をつけます」「許せないですね~」って、みんな優しい。
ここが日本人のいいところでもあり、悪いところでもある。
「許せないですね~」って、まるで隣のおばちゃんが「昨日スーパーで卵安かったのよ~」くらいのテンション。
世界のハッカーが聞いたら笑いますよ。
「おい、俺たちサイバー犯罪組織なんだけど、日本じゃ“許せないですね~”で済まされるらしいぞ」って。
で、さらに珠緒さんは「電話番号変えて、機種変して、パスワードも新しくしました!」って。
これね、もう立派な被害者なんだけど……芸能人ってのは得ですね。
一般人が同じことやったら「アホだな」で終わりなんですよ。
ところが芸能人がやると「ニュース」になる。
俺なんかがインスタ乗っ取られたら?
記事になるどころか「談志のアカウント、どうせ弟子がイタズラしてんだろ」で終わりですよ。
だけどね、この話は他人事じゃないんです。
考えてみりゃ、SNSってのは「現代の長屋」みたいなもんで。
昔の長屋は、井戸端で「お前んとこ昨日なに食った?」って世間話してた。
今の長屋は、タイムラインで「お昼にラーメン食べました」って見せ合ってる。
で、そこに紛れ込むのが「怪しい隣人」。
「このリンク踏んでくれない?」って、井戸端に毒混ぜてるようなもんですよ。
しかも怖いのは、被害に遭った本人よりも、フォロワーが巻き込まれるってこと。
泥棒に入られた家よりも、近所の家にまで火が移る。
だから「みなさん気をつけて」ってなるんです。
まるで「オレはまだ無事だが、町内会全員用心しろ!」って火の見櫓で鐘叩いてるみたい。
でもね、私ぁ思うんだ。
このインスタの乗っ取り、芸能人だけじゃなく政治家にもやってほしいよ。
「もしこのアカウントから“税金上げます”ってDMが届いたら、それは乗っ取りです!」ってね。
そしたら国民全員「やっぱり偽物か!」って安心するじゃないですか。
逆に本物だったら……それこそ「許せないですね~」じゃ済まない。
いやでも、考えてみりゃ「SNSのなりすまし」なんて、昔から日本人やってんですよ。
履歴書に「英検2級」って書いたら、実は落ちてた。
見合い写真は3割増し。
今で言や「加工アプリ」ですよ。
なりすましと誇張で生きてきたのが人間なのに、いざSNSでやられると「許せない!」って騒ぐ。
……人間って勝手なもんですね。
で、珠緒さんは最後に「みなさんも気をつけてくださいね」って結んでる。
これがまた絶妙でね。
普通の人が言ったら説得力ないけど、「芸能人が自分の恥さらして警告する」ってのは、立派な公共サービスですよ。
ある意味、国の広報よりも効果ある。
だって、芸能人のほうがフォロワー多いんだから。
考えてみりゃ、SNSのニュースってのは落語と似てますよ。
どっちも「人の失敗」が面白い。
人の不注意、人の勘違い、人の欲。
これが笑いになる。
だから俺がこうしてネタにしてる。
つまり、珠緒さんは「現代の与太郎」ってことですな。
「知り合いからDM来たから開いちゃった~、ぷんすか!」って。
……これぞ落語ですよ。
でね、最後に言っときますけどね。
もし私から「今すぐこのリンク踏め!」ってDMが届いたら……それは間違いなく私です。
だって談志ですから。
人を騙すのが芸なんです。
あとは、みなさんのご判断にお任せいたします――。
おあとがよろしいようで

2幕目

「治ったらライブ」
おあとがよろしいようでってんで……いやね、みなさん、人間ってのは病気になると急に「本気の言葉」が出るんだな。普段はね、飲んだ席で「お前とは一生一緒だ」とか言ってても、次の日には忘れてる。ところが相方が病気になると、急に言葉が変わる。
――「治ったらまたライブやろう」なんて言い出すんだ。
これがまたグッとくるようでいて、冷静に考えると、ライブって治ってからでいいのか? 病院でベッドに寝てても「いやもう今から漫才やろう」ってくらいの根性見せろよって話だ。
いやいや、これは皮肉じゃない。むしろ愛情だ。愛情ってのはね、回りくどくて、時に茶化すことで出るんです。泣きながら「心配だよ」って言うより、「おい、死ぬなよ、ギャラが減るだろ!」の方がリアルだったりする。
で、話題になったのが「激ヤセ写真」。
世間の人はね、写真ひと枚で大騒ぎする。「あんなに痩せちゃって……」って、いやアンタ、俺だって夏バテで二キロ落ちただけで「病気か?」って言われるんだ。芸能人ってのはつらいもんでね、体重計の数字じゃなくて、週刊誌の見出しで健康状態が決まる。
しかも最近はAIだ、加工アプリだってあるから、ちょっと暗い照明で撮られたら「激ヤセ!」、明るいライトで撮られたら「激太り!」って。
いやもう「激」しか残ってねぇじゃねぇか。
で、木梨憲武だ。ラジオで「治ったら違うライブが始まる」なんて言って、最後に曲をかけたんだ。
「セブンスコードを天国にくれ」……タイトルからして、なんだか今流すのは怖ぇじゃねぇか。「天国」って言葉が出てきちゃってる。
しかも曲の途中で番組終了だ。「ちょっと待ってよ~!あとちょっと!」って。
いやいや、これがまた象徴的だね。
人生ってのはだいたい曲の途中で終わるんだよ。
「俺の人生はこの先がクライマックスだ」って言ってる時に、ピンポン、番組終了。
それが人間だ。
だからこそ、ラジオであの人は叫んだんだ。「ちょっと待ってよ~!」って。あれは実は相方に言ってる。「おい、まだ終わるんじゃねぇぞ」って。
考えてみりゃ、とんねるずってのは昭和から平成にかけて暴れ回って、なんでも壊してきたコンビだ。「食わず嫌い」で豪華な料理を食わせ、「みなさんのおかげです」で芸能界を巻き込んで。
壊すことが芸だったのに、いざ自分たちの身体が壊れると、これは直せねぇ。テレビのセットはハリボテだから簡単に壊せるけど、人間の体はハリボテじゃないんだ。
――だけど木梨憲武の凄いところは、それを笑いに変えるところだ。
「治ったらライブが始まる」ってのは、単なる慰めじゃない。
「お前の病気で、とんねるずって物語に、また一章できるんだ」って。
つまりね、病気でさえネタにしてやろうっていう。これが芸人の矜持ってやつだ。
ところが世間はね、すぐに「かわいそう」「大丈夫?」って言葉ばかり並べる。そういう言葉は人を弱らせる。
逆に「おい、治ったらギャラ半分な」って言われた方が、病人は強くなる。
優しさと残酷さのバランスってやつですよ。
で、ここで風刺をひとつ。
今の世の中、芸人が病気になったら「休養してください」「無理しないで」って優しいことばかり言うだろ?
でもね、芸人ってのは、無理した時に一番面白いんだ。
だって無理してる姿が「人間」だからさ。
元気な人間が元気に笑わせても、そりゃ予定調和。痩せた奴が「大丈夫です!」って言って笑い取るから客は泣き笑いになるんだ。
だから石橋貴明には、ぜひ治ってもらわなきゃ困る。
治って、またライブをやって、「なんだよオマエ、死ぬ死ぬ詐欺か!」って客に言われるくらいが一番カッコいい。
で、最後にまた「セブンスコードを天国にくれ」を流すんだ。今度はフルで。
終わり際に木梨が叫ぶ。
「ちょっと待ってよ~! まだまだ終わんないよ!」
――これが、最高のエールってやつですよ。