
4月14日、 トランプ米大統領が「解放の日」と銘打って関税措置を発表して以降に起こった事のうち、最も驚くべき現象の1つがドルの持続的な軟化だ。写真は米ドル紙幣。2018年2月撮影(2025年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)
[14日 ロイター] – トランプ米大統領が「解放の日」と銘打って関税措置を発表して以降に起こった事のうち、最も驚くべき現象の1つがドルの持続的な軟化だ。市場に端を発する危機が、世界一の経済大国である米国で始まるのではないかとの懸念も生じている。
しかし、今起こりつつあるのは世界資本の健全なリバランス(再配分)である可能性が高い。
トランプ氏が2日に「相互関税」を発表する前、ほぼ全てのエコノミストがこの発表でドルは上昇すると予想していた。関税はインフレをもたらすので、理論的には米連邦準備理事会(FRB)の利下げ回数が減ると予想されて債券利回りが上昇するはずだから、というのがその理屈だった。
ドルの利回りが他通貨に比べて大幅に上昇することは、短期的にはドル高をもたらすはずだった。ドルが安くなるのは、米国の貿易赤字が縮小し、それに伴い外国企業のドル需要が減る段階が訪れてからのはずだった。
それまでの間、幅広い関税措置はユーロ圏その他、対米輸出国の成長率を押し下げ、ユーロ安につながるはずだった。
あろうことか、それと正反対の事が起こった。関税措置による為替実効レートの変動を予測する当社のモデルは、報復措置がなければドルは1%上昇し、報復措置があれば小幅に下落すると予想していた。ユーロは前者の場合に1%、後者では0.7%、それぞれ下落するはずだった。
実際に起こったことは何か。ドルは4%余りも下がってユーロは2.8%跳ね上がったのだ。
Chart depicting trade weighted exchange rates of US dollar and euro
債券市場が同時に動いていなければ、このことは、ありがちな経済モデルの欠陥で片付けられたかもしれない。
しかし米国債市場では、期待インフレ率の指標である物価連動国債と通常の国債の利回り差「ブレークイーブン・インフレ率」が、関税発表に反応して5年物で20ベーシスポイント(bp)低下した。何度も言うが、関税はインフレをもたらすはずなのに。
関税は経済成長率を低下させて実質利回りを押し下げるはずなのに、5年物国債の実質利回りは上昇した。
Chart depicting inflation expectations declined but real yields rose
私がこのコラムを執筆している時点で、米国の債券利回りは上昇を続けており、そのほぼ全部が実質利回りの上昇によるものだ。市場では「米国例外主義」は終わったという声が高まりつつある。
<リズ・トラスの瞬間>
経験豊富な投資家なら、このパターンになじみがあるだろう。これは、投資家がある国の政府とその債務返済能力への信頼を失った時に起こる新興国市場危機の典型例だ。その結果、資本は逃げ出し、国債は激しく売られ、リスクプレミアムは上昇する。
こうした現象は先進国ではほとんど見られなかった。2022年9月、当時のリズ・トラス英首相が悪名高い「ミニ予算」を発表して世界の投資家からの信頼を失うまでは。
この時、英国債利回りは急上昇し、資本逃避が起こってイングランド銀行(英中央銀行)は介入を余儀なくされた。結局、首相は政策を撤回せざるを得ず、辞任に至った。彼女の政権がレタスの賞味期限より短命に終わったことは有名な逸話だ。
現在のドル安と米国債実質利回りの動きは、トランプ氏も「リズ・トラスの瞬間」を迎える可能性を示唆している。世界の投資家は、資本を振り向けるのに最善の場所としてのドルと米国への信頼を失いつつある。
資本フローの詳細なデータはまだ入手できないが、日々の上場投資信託(ETF)の資金流出入を見れば、今起こっていることを想像できる。相互関税発表後の米国および欧州の株式ETFを見ると、米国株に特化したETFからは差し引きで大量の資金が流出している一方、欧州株ETFからはほとんど流出していないことが明確に分かる。
米国の投資家の間では、米国を除く世界の株式に投資する「国際ETF」への純資金流入さえ起こっている。
Chart depicting equity ETF flows in the first week of April
<リバランシング>
われわれは米国例外主義の終焉をリアルタイムで目撃しているのかもしれない。しかしこれは、世界の基軸通貨というドルの地位の終わりではない。今目にしているのは、国際的な投資ポートフォリオのリバランスである可能性が高い。過去10年間、世界のポートフォリオは米国資産への集中度合いを高めてきた。例えばMSCI世界株価指数に占める米国株の割合は、2010年の48%から今では73%まで高まっている。
現在の動きは、2000年のハイテクバブル崩壊後に起こったことを想起させる。当時、投資家は徐々に米国への資産配分を減らし、欧州とアジアへの配分を増やしていった。それまでのわずか5年間で、MSCI世界株価指数における米国株の割合は40%から60%へと高まっていた。
この結果、米国株のバリュエーションが下がって欧州株のそれはほぼ横ばいだったため、米国株に対する欧州株のバリュエーションのディスカウントは徐々に縮まった。投資家が米国から資金を引き揚げ、もっとパフォーマンスの良い市場に移したのは驚くに当たらない。
今後数年間も当時と似たポートフォリオのリバランス期間が訪れ、欧州およびアジア市場に対する米国市場のアンダーパフォームが続くかもしれない。近年どれだけの外国資本が米国市場に押し寄せたかを考えれば、このリバランスはウォール街に痛みをもたらす可能性はある。
(筆者は英投資銀行パンミュア・リベラムの投資ストラテジストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
