
大リーグで初めて、日本のピッチャーどうしが開幕投手を務めた東京ドームでの試合。カブスの今永昇太投手は、ワールドチャンピオンを相手に4回を無失点、ヒットを1本も許さない内容で、2年目のスタートを切りました。
自身の考えや理論を独自の感性で言語化することにたけ“投げる哲学者”とも呼ばれる今永投手。
1年目で15勝、防御率2.91という好成績を残し、迎える2年目。研究されるであろう“2年目のジンクス”にも、あくまで自分流を貫く決意です。
(スポーツニュース部 並松康弘)
“僕はボールを「球体」ではなく「立方体」とイメージ”
今永昇太投手
「相手が刀を持って斬りにかかっているのに、こっちも同じようにやったら動けなくて斬られるんですよ。受けちゃだめで、やってきたメカニズムでスッといけるかどうか。それができるかが僕の中での鍵なので」
「僕はボールを球体ではなく、立方体とイメージして、その角に自分の指を引っかけて、このアーチを保ったまま腕を振って投げる。遠心力でボールを持ちきれなくなって、そこで離すしかなかったというのが一番いいボールだと思います」

自身の考えや理論を独特の言い回しで表現する今永投手。
昨シーズンの好成績に加えて、アメリカメディアの質問に冗談を交えて答えたり、英語でのギターの弾き語りでチームの応援歌を披露したりするなど、そのキャラクターもあり現地のファンの心をがっちりつかんでいます。
カブスのスプリングトレーニングが行われたアリゾナ州のキャンプ地では、今永投手のユニフォームを着たファンを多く見かけ、2年目にかかる期待の大きさを感じさせました。

ファンの男性
「人柄もすばらしいね。去年と同じように活躍してほしい」
「昇太が好きだ。チームにエネルギーを注いでくれるからね」
“僕の投球スタイルはもう丸裸にされている”

今永投手の持ち味は大リーグ屈指の回転数が生み出す、高めに伸びるストレートと、低めに鋭く落ちるスプリットです。
この高低差を生かした投球術で、昨シーズンは大リーグの並みいる強打者を抑え込み、15勝と防御率2.91という、ともにリーグ3位の成績を残しました。
年間最優秀投手に贈られる「サイ・ヤング賞」の投票でもナショナルリーグの5位に入り、オールMLBのセカンドチームにも選ばれるなど、1年目から大活躍を見せました。
それでも、2年目は徹底的に研究されることを誰よりも自覚しています。
今永投手
「ストレートを高め、スプリットを低めに投げる僕の投球スタイルはもう丸裸にされていると思う」
“自分がやるべきことは「上回る」ではなく「異なる」ことだ”

今シーズンの大リーグで、カブスが最も早くキャンプをスタートさせた2月9日、今永投手の体は、目に見えて大きくなっていました。
ユニフォームの上からでもはっきり分かるほど太くなった肩周りや太もも。このオフ、投球スタイルに変化を加えようと筋力トレーニングに取り組んだのです。
昨シーズン、リーグで5番目に多い27本のホームランを打たれた経験などから、より速いボールで力勝負を挑もうとしたためです。
今永投手
「大リーグは無差別級の格闘技と同じような感覚なので、体は大きくて強くて損はないと思います。もっとホームランを減らして三振を増やして、多くのイニングを投げなければアメリカでは評価されないので、そういう先発投手を目指しています」

しかし、キャンプ序盤はこの変化が裏目に出ました。
生命線のストレートは“高めの伸び”を欠き、コントロールが定まりませんでした。
実戦形式の練習では甘く入ったストレートをマイナーリーグの選手に完璧にとらえられ、ホームランにされるという場面もありました。
これについて今永投手は肉体の変化が力みにつながっていたと自己分析しました。
今永投手
「速い真っすぐ(ストレート)を投げようとしたときに、自分のフォームの中でエラーが起きる。大リーグの球が速いピッチャーがストライクゾーンでどんどん勝負していくスタイルにすごく憧れていたんですが、自分にはできなかったので。早い段階でその勘違いをそぎ落として、自分がやるべきことは“上回る”ではなく、“異なる”ことだと気づけました」
“「ほぼ2択」に思われているのを、いかに「3択」にできるか”

開幕を控え、今永投手はボールの速さではなく、本来の持ち味である“伸び”や、コントロールで勝負しようと軌道修正しました。
そして、キャンプ終盤に始めたのは現地で買ったハンドボールを使った練習です。
ハンドボールは、野球のボールに比べて大きいため、正確に投げるためには手先だけに頼るのではなく、全身を使わなければいけません。
アメリカで多くの選手が練習で投げるアメリカンフットボールのだ円形のボールは自分の感覚には合わないと感じ、みずから考えてハンドボールを取り入れました。

さらに、ボールを真上に投げる練習を始め、肩甲骨から腕を動かす感覚を研ぎ澄ませました。
こうした独自の練習を毎日のように繰り返してフォームを体に覚え込ませ、ボールの伸びやコントロールを取り戻そうとしたのです。

そして“2年目のジンクス”を打ち破るために配球にも工夫を加えました。
磨きをかけたのがストレートとスプリットというこれまでの強みに加えた、第3の球種、スライダーです。

昨シーズンは、全体のわずか8%にとどまった、自身が苦手とする球種ですが、横の変化を加えることができれば、投球の幅が広がり、ストレートとスプリットの高低差をさらに生かすことができると考えました。
今永投手
「『(ストレートとスプリットの)ほぼ2択』みたいな感じに思われていると思うので、それをいかに3択にできるか。彼のスライダーは意外と切れてくるぞというふうに相手バッターの頭が働いてくれたら、投げることに意味があると思います」
“僕は誰にもなれないし誰も僕にはなれない”大谷と対戦で手応え

その成果は開幕戦のマウンドで早速、証明されました。
東京で行われたドジャースとの試合で今永投手が「世界一の選手」と評価する、大谷翔平選手との勝負でした。

今シーズンの大リーグの幕開けとなる、1球目は、持ち味の高めに伸びるストレート。ボールの回転数は昨シーズンの平均を大きく上回る「2684」を記録する、質の高いボールでした。
3球目も2600回転を上回るストレートで大谷選手を詰まらせセカンドゴロに打ち取りました。そして、2回目の対戦では、高めのストレートと低めのスプリットで追い込んだあと、3つ目の選択肢として磨いてきたスライダーで勝負しました。
意表をつかれたのか、大谷選手は強いスイングができず、セカンドライナーに倒れたのです。
今永投手はこの試合、ドジャースの強力打線に対して、フォアボールとデッドボールを合わせて4つ与えたものの、ヒットは1本も許しませんでした。
4イニングを投げて無失点。ストレートは球速、回転数ともに去年の平均を上回り、スライダーの割合を去年の倍近くまで増やし、2年目のスタートで進化した姿を見せました。
今永投手
「自分の力を証明しなければいけないシーズンだと思うので、まぐれでもない、自分の力で歩んできたんだというところを示す必要があるかなと思います。僕は誰にもなれないし、誰も僕にはなれないので、自分が通ってきた道をしっかり確認しながら今シーズンやれたらいいと思います」
“この歓声をアラームにできたら、寝起きもいいと話したが…”

そしてアメリカに戻って迎えた、今シーズン2回目の登板は3月29日のダイヤモンドバックス戦。
今永投手は2回に満塁のピンチを招きましたが、スライダーで内野ゴロに打ち取るなど最少失点でしのぎました。
7回を投げて打たれたヒットは3本、1失点の好投で今シーズン初勝利を挙げました。
4月4日の本拠地開幕戦でもマウンドに上がった今永投手。地元、シカゴのファンからは大歓声が送られました。
この試合、開幕7連勝と好調のパドレス打線を相手に今永投手は8回途中までを1点に抑えて2勝目を挙げました。
試合後に語ったのは。
後押ししてくれたファンへの感謝でした。
今永投手
「以前、この歓声をアラームにすることができたら、きっと寝起きもいいんじゃないかという話をさせてもらったことがあるんですけど、それが大きな間違いだったと気づきました。きっとこの大歓声をアラームにしてしまったら、ずっと聞いていたいから。たぶん、僕は球場に遅刻してくると思います」。
「もう勝手に自転車乗って行ってください」と言われるシーズンに
開幕からの3試合で防御率0.98と圧倒的な数字を残し“2年目のジンクス”を感じさせない投球を続ける今永投手。

船旅に例えて「まだロープを外しただけだ」と話していた大リーグ1年目から、今、どのような段階にあるのか報道陣から問われると。
今永投手
「すごくいい質問ですね。僕はそういったことを聞かれた時にちょっと答えようと思ったことがひとつあるんですけど。まあ自転車に1回乗れただけで、みんな『自転車に乗れたね』とは言わないと思うんです。今、僕の状態って。自転車に乗れて、たぶん、ふらふらふらふら運転してる状態だと思うんですよね。なので誰かに、はじめはこう後ろを支えてもらって、補助輪をつけて走ったりするじゃないですか。それから手を離してもらって、今ふらふら運転してる状態で、ここから長い距離を乗るということが『自転車に乗れているね、あなた』って周りから言われると思うので。『もう大丈夫だね』って。『もう勝手に自転車に乗ってどこか行ってください』って言われるような、そういうシーズンにしたいですね」
みずからの強みや課題を冷静に分析して、さらなる高みを目指す今永投手。
大リーグ2年目も自分の考えた“野球道”を貫く姿とともに、どんな言葉で自身の考えを表現してくれるのか、その言動にも注目したいと思います。
(3月17日ニュースウオッチ9で放送)

スポーツニュース部記者
並松 康弘
新潟局、仙台局、大阪局を経て2024年秋から現所属